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広島地方裁判所 昭和44年(ワ)956号 判決 1974年4月12日

原告

楊井和宏

ほか五名

被告

中村三次

ほか三名

主文

被告中村三次および被告安岡孝宴は各自原告楊井美智子に対し金一九九万六〇〇円、原告楊井和宏、原告楊井浩に対し各、金八九万六〇〇円、原告末廣醇子に対し金一七七万三、六六六円、原告末廣公一に対し金三四万七、三三四円、原告有限会社梶田組に対し金四〇万円と、右各金員に対する被告中村三次は昭和四四年一〇月五日から、被告安岡孝宴は同月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告中村三次、被告安岡孝宴に対するその余の請求および被告高橋宗生、被告セントラルコンベヤー株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告中村三次および被告安岡孝宴との間においては、原告らに生じた費用の四分の一を被告中村三次および被告安岡孝宴の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告高橋宗生および被告セントラルコンベヤー株式会社との間においては全部原告らの負担とする。

この判決は第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告楊井和宏、原告楊井浩に対し各金一八二万円、原告楊井美智子に対し金二九七万円、原告末廣公一に対し金二三七万二、〇〇〇円、原告末廣醇子に対し金二八三万六、〇〇〇円、原告有限会社梶田組に対し金四五万一、〇〇〇円と、右各金員に対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告中村三次、被告安岡孝宴、被告セントラルコンベヤー株式会社は、原告有限会社梶田組に対し各自金六三万六、八八〇円と、これに対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1、2項につき仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下本件事故という)の発生

(一) とき 昭和四四年六月一三日午後六時四五分ごろ

(二) ところ 広島県佐伯郡大野町鴨川ドライブインいこいの家前国道二号線路上

(三) 態様 被告中村が普通貨物自動車(三河一れ七〇〇九号。以下これを被告車という)を運転して東行、現場にさしかかつた際、折から西行中の訴外福永美貴男運転のマイクロバス(山5ね一四四三。以下これを原告車という)前部に衝突した。

(四) 死亡者 原告車に同乗していた楊井純、末廣末敏の両名が右事故により頭蓋骨骨折等の傷害を受け、それが原因で楊井純は同月一四日、末廣末敏は同月二二日いずれも死亡した。

2  責任原因

(一) 被告中村

本件事故は、被告中村運転の被告車が本故事故現場付近において他車を追い越すためセンターラインを越えて進行中、折から道路中央に寄つて対向して進行していた福永運転の原告車が進行方向に向つて左側に寄つたところ、被告中村が被告車を進行方向に向つて右側に寄せたため、被告車が原告車に衝突したものであり、被告中村の前方不注意、追い越し不適当等の過失により生じたものであるから、被告中村は不法行為者としての責任がある。

(二) 被告高橋

被告高橋は被告車の所有者であるから、運行供用者としての責任がある。

(三) 被告安岡

被告安岡は、被告高橋から被告車を借り受け、常時自己の営む運送業に使用していたところ、本件事故は被告安岡の従業員である被告中村がその業務として被告車を運転中惹起したものであるから、運行供用者並びに使用者としての責任がある。

(四) 被告セントラルコンベヤー株式会社

被告安岡は専属的に被告会社の運送を請負い、右運送については被告会社の指揮監督に服し、本件事故も被告会社の注文による貨物運送の帰途発生したものであるから、被告会社は運行供用者並びに使用者としての責任がある。

3  よつて被告らは亡楊井純の遺族である原告楊井和宏、浩、美智子に対し本件事故により生じた左記損害を賠償する義務を負う。なお原告美智子は亡純の妻、原告和宏、浩は亡純の子であつて、右原告らは亡純の相続人である。

(一) 損害の総計

(1) 原告らの相続した亡純の得べかりし利益

亡純は本件事故当時三六才の健康な男子で原告有限会社梶田組に勤務し、月額平均金六万二、〇〇〇円の収入を得ていたから、同人の平均余命三四・六二年のうち稼働可能年数は二七年、同人の生活費は毎月二万円として、その間の得べかりし利益金一、三六〇万八、〇〇〇円から年別ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して同人の死亡時における現価を求めると金八四六万円(万未満切捨て)となり、同人は死亡により右額相当の損害を蒙つたということができる。

原告らは法定相続分に従い各自右金額の三分の一の金二八二万円宛を相続した。

(2) 原告らに生じた慰謝料

右原告三名は、亡純の死亡により多大の精神的苦痛を蒙つたが、右苦痛に対する慰謝料として、原告美智子は金二〇〇万円、原告和宏、原告浩は各金一〇〇万円が相当である。

(3) 葬式費用

原告会社は亡純の葬式費用として金一五万円を立替払いし、原告美智子は原告会社に対し右立替金支払債務を負担した。

(二) 損害の填補

右原告三名は自賠責保険から金六〇〇万円を受領したので、各自その三分の一の金二〇〇万円宛を右損害額に充当した。

(三) よつて原告ら各自の賠償請求額は次のとおりである。

原告美智子 二九七万円

原告和宏 一八二万円

原告浩 一八二万円

4  同じく被告らは亡末廣末敏の遺族である原告末廣公一、醇子に対し本件事故により生じた左記損害を賠償する義務を負う。原告醇子は亡末敏の妻、原告公一は亡末敏の子であつて右原告らは亡末敏の相続人である。

(一) 損害の総計

(1) 原告らの相続した亡末敏の得べかりし利益

亡末敏は本件事故当時三六才の健康な男子で、原告会社に勤務し月額平均金六万円の収入を得ていたから、同人の平均余命三四・六二年のうち稼働可能年数は二七年、同人の生活費は毎月二万円として、その間の得べかりし利益金一、二九六万円から年別ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して同人の死亡時における現価を求めると金八〇六万円(万未満切捨て)となり、同人は死亡により右額相当の損害を蒙つたということができる。

原告らは法定相続分に従い、原告醇子は右金額の三分の一の金二六八万六、〇〇〇円を、原告公一は右金額の三分の二の金五三七万二、〇〇〇円をそれぞれ相続した。

(2) 原告らに生じた慰謝料

右原告両名は、亡末敏の死亡により多大の精神的苦痛を蒙つたが、右苦痛に対する慰謝料として、原告醇子は金二〇〇万円、原告公一は金一〇〇万円が相当である。

(3) 葬式費用

原告会社は亡末敏の葬式費用として金一五万円を立替払いし、原告醇子は原告会社に対し右立替金支払債務を負担した。

(二) 損害の填補

右原告両名は自賠責保険から金六〇〇万円を受領したので、原告醇子はその三分の一の金二〇〇万円を、原告公一はその三分の二の金四〇〇万円をそれぞれ右損害額に充当した。

(三) よつて原告ら各自の賠償請求額は次のとおりである。

原告醇子 二八三万六、〇〇〇円

原告公一 二三七万二、〇〇〇円

5  また原告有限会社梶田組は被告中村、安岡、セントラルコンベヤー株式会社に対し本件事故により生じた左記(1)の損害及び、被告らに対し左記(2)(3)の損害の賠償を請求する。

(1) 物損

原告会社の代表者である梶田明広は、原告車を、昭和四三年五月一六日訴外安全自動車株式会社から代金七六万円で購入し、原告会社設立時である昭和四四年一月六日、原告会社に譲渡したところ、原告車は、本件事故により修理不能の程度に毀損した。本件事故当時の原告車の価格は、固定資産の減価償却額の定額法によれば、760,000-{(760,000-76,000)×0.166×(1+1/12)}=636.880(円)であるから、原告会社は六三万六、八八〇円の損害を蒙つた。

(2) 減収

原告会社は従業員二四名を擁し主として機械据え付け工事を営んでいるところ、本件事故により前記のとおり従業員中二名が死亡し、七名が入院加療一か月ないし三か月を要する重傷を負つた。右従業員らは所謂鳶職であつて非代替性の職務であるので、右の期間原告会社の業務は大いに支障を来し、本件事故後の昭和四四年六月、七月、八月の原告会社の月平均売上は、同年一月から五月までのそれに比較して、月約金三九万円の減少を来した。原告会社の収益は売上の三割と見込まれるので、右の期間の原告会社の収益は金三五万一、〇〇〇円の減収となつた。

(3) 弁護士費用

原告会社は本訴を提起するに当り、弁護士開原真弓、同河村康男に対し、昭和四四年八月三〇日、着手金として金一〇万円を支払つた。

6  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告和宏、原告浩は各金一八二万円、原告美智子は金二九七万円、原告公一は金二三七万二、〇〇〇円、原告醇子は金二八三万六、〇〇〇円、原告会社は金四五万一、〇〇〇円、別に被告中村、被告安岡、被告会社に対し原告会社は各自金六三万六、八八〇円と、それぞれ右各金員に対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告中村、被告安岡、被告会社)

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実については被告中村に過失のあつたことはしいて争わないが、後記のとおり訴外福永にも本件事故発生について過失がある。

(二)  同2(三)の事実については、その中被告安岡が被告高橋から被告車を借り受けていたとの事実は否認し、その余の事実は認める。被告安岡は被告車の所有者である。

(三)  同2(四)の事実については、本件事故が被告会社の注文による貨物運送の帰途発生したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  請求原因3、4の事実は不知。損害額は争う。但し各(二)の事実は認める。

4  同5は争う。

(被告高橋)

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2(二)の事実は否認する。被告高橋は雇主の被告安岡に頼まれて単に登録上の名義を貸してやつただけで、被告車の所有者でないし、いわゆる運行供用者でもない。

3  同3、4の事実については各(二)の事実は認めるが、その余は争う。

4  同5は争う。

三  被告らの過失相殺の主張

本件事故は福永が事故の直前原告車を運転してセンターラインを越え反対車線を走行していたところ、同車線を対向して進行中の大型貨物自動車を発見して、原告車を自己の車線に戻したために、被告中村が原告車を避けることができず、被告車と原告車とが衝突したものであり、福永は原告会社の従業員であるから同人の過失は被害者側の過失として原告ら全員について

過失相殺すべきである。

四  右被告らの主張に対する認否

右過失相殺の主張は争う。福永がセンターラインを越えて原告車を走行させたのは、自己の車線上を対向して進行して来る被告車を避けるためである。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実は被告高橋を除く他の当事者間ではすべて当事者間に争いがない。

二  被告らの責任原因

1  被告中村について

本件事故が、被告車の運転者である被告中村の過失により発生したことは、同被告の争わないところである。よつて、被告中村は不法行為者として、本件事故により原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告高橋について

〔証拠略〕によれば、被告車は被告高橋名義で登録されてはいるが、右車の買入契約、代金の支払、保険料、ガソリン代等緒経費の負担等、すべて被告安岡においてこれをなし、被告高橋は右車を平生管理運転していたわけでもなく、同被告はただ同人の雇主である被告安岡に頼まれて無償で名義を貸与してやつただけの関係にすぎず、そのために何らの利益も受けていたわけではないことが認められる。

右認定に反する証拠はない(尤も〔証拠略〕によると、被告安岡が本件事故当時営業用に使つていた三台の車のうち、訴外小林昭子名義の車についてはこれも実質は被告安岡の所有であるが、ただ右小林に対しては経理上右車による水揚の一部を支払つていたことが知られる。しかし右小林と被告高橋の被告安岡に対する関係の相違を考えると一方がそうだからといつて他方もそうだと推測するわけにもいかないこと言うまでもない)。右事実からすると被告高橋が被告車の運行に対する支配を有し、その運行による利益が同人に帰属する関係にあつたとは認め難いから、被告高橋には、本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき責任はないと解せられる。

3  被告安岡について

前認定の如く被告安岡は被告車の借受人というより所有者であり、被告安岡が、右車を常時自己の営む運送業に使用していた事実は〔証拠略〕から明らかである。そうして、本件事故は、被告安岡の従業員である被告中村が、その業務として右車の運転中惹起したものであることは当事者間に争いがない。そうすると、被告安岡は、使用者として原告会社の蒙つた損害を、運行供用者としてその余の原告らの蒙つた損害をそれぞれ賠償する責任があるといわなくてはならない。

4  被告会社について

本件事故が、被告会社の被告安岡に対する注文による貨物運送の帰途発生した事実は、当事者間に争いがない。原告らは被告会社も使用者責任、運行供用者責任を有すると主張するので右両被告間の関係を調べるに、〔証拠略〕によれば、被告安岡は昭和四〇年秋ごろから被告会社の製品の運送を継統的に行なうようになり、事故直前には被告会社の年間の運送費のうち、約五八パーセントが被告安岡に支払われるくらいにまでよい取引先になつたこと、そのため被告安岡は被告会社に頼まれて自己の営業用貨物自動車のうちの一台(但し被告車ではない)の車体に広告用に被告会社名を記載することを許していた時期があつたこと、および、被告会社は、昭和四四年一〇月一〇日ごろからは本件事故を理由として、被告安岡に運送を請負わせていないことが認められる。しかし、他方〔証拠略〕によれば被告安岡は別に被告会社の仕事だけを請負つているわけではなく、(因みに同被告の昭和四三年六月から昭和四四年五月までの一年間の総売上の中、被告会社の占める割合は三九・六パーセントである)被告安岡が被告会社の構内に事務所を設置しているような事実もなく、被告会社から注文を受けるときも荷物および送達先の指示を受けるのみで、通常の顧客と変ることはなく、被告会社が被告安岡の従業員の人事管理について指図をしたり、被告安岡の使用する車の諸経費を支払つたりしたこともなかつた事実及び本件事故発生についても被告安岡は被告会社に何も通知連絡をしなかつたしその必要も感じていなかつた事実をそれぞれ認めることができる。これらの事実に照すと単に先に認定した事実から被告会社と被告安岡間に単に顧客関係上の関係を推認することはむずかしく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。してみれば、被告会社が、被告安岡および被告中村の使用者であるとは云えないし、また、被告車の運行供用者であるとも云えないから、被告会社には本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき責任はないというほかはない。

三  原告らの損害

1  原告楊井和宏、同浩および同美智子について

(一)  亡純の得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、亡純は本件事故当時三六才の健康な男子で、原告会社に鳶職として勤務し、月額平均金六万一、〇〇〇円(但し昭和四四年一月から五月までの現金支給額の平均値。一、〇〇〇円未満切捨)の収入を得ていた事実が認められる。また、亡純の生活費は収入の五割を超えないものと認めるのが相当であるから、同人の本件事故当時における年間純収益は、右割合の生活費を控除して少くとも金三六万六、〇〇〇円になるところ、同人は本件事故がなければ六〇才までの二四年間就労が可能であつたと認めるのが相当であるから、本件事故により同人が喪失した得べかりし利益は、右金額から年五分の割合による中間利息を年別ホフマン式計算法により控除した(ホフマン係数一五・四九九七)金五六七万二、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)と見積られる。

〔証拠略〕によれば、原告美智子は亡純の妻、原告和宏、原告浩はそれぞれ亡純の子であることが認められるので、右原告三名は、亡純の本件事故により喪失した右得べかりし利益に対する賠償請求権を、それぞれ三分の一の金一八九万六〇〇円宛相続により承継したと云うべきである。

(二)  慰謝料

〔証拠略〕によれば、原告美智子は昭和三九年に亡純と結婚し、昭和四〇年原告和宏が、昭和四二年には原告浩が生れたこと、亡純は右一家の経済的主柱であつたことが認められる。右の事実その他諸般の事情を総合すれば、原告美智子の夫を失つたことによる精神的苦痛、原告和宏、同浩の実父を失つたことによる精神的苦痛を慰謝するためには、原告美智子については金二〇〇万円、原告和宏および原告浩については各金一〇〇万円の慰謝料が相当である。

(三)  葬式費用

〔証拠略〕によると亡純の葬式は原告会社が費用を負担して営んだものと認められる。しかして右本人の供述によると原告美智子はまだ会社から右費用の請求等受けていないようではあるが、むしろ反対の証明がない限り葬式費用は遺族が負担すべきもので原告美智子は会社にこれを償還すべきものであるから、会社が右費用を自己負担することの確証のない本件では(むしろ〔証拠略〕より推測すると会社は右費用を求償する意向を失つていないように窺われる)、これを原告美智子に生じた損害と解して妨げない。右費用の明細等立証がないが一〇万円の範囲でこれを認める。

(四)  損害の填補

請求原因3(二)の事実は当事者間に争いがない。

(五)  合計額

よつて、右原告三名の損害賠償を請求し得る額は、原告美智子が金一九九万六〇〇円、原告和宏および原告浩が各金八九万六〇〇円である。

2  原告末廣公一および同醇子について

(一)  亡末敏の得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、亡末敏は本件事故当時三六才の健康な男子で、原告会社に鳶職として勤務し、月額平均金五万四、〇〇〇円(但し昭和四四年一月から五月までの現金支給額の平均値。一〇〇〇円未満切捨)の収入を得ていた事実が認められる。また亡末敏の生活費は収入の五割を越えないものと認めるのが相当であるから、同人の本件事故当時における年間純収益は、右割合の生活費を控除して少くとも金三二万四、〇〇〇円になるところ、同人は本件事故がなければ六〇才までの二四年間就労が可能であつたと認めるのが相当であるから、本件事故により同人が喪失した得べかりし利益は、右金額から年五分の割合による中間利息を年別ホフマン式計算法により控除した(ホフマン係数一五・四九九七)金五〇二万一、〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)と見積られる。

〔証拠略〕によれば、原告醇子は亡末敏の妻、原告公一は亡末敏の子であることが認められるので、亡末敏の本件事故により喪失した得べかりし利益に対する賠償請求権を、原告醇子は右金額の三分の一の金一六七万三、六六六円、原告公一は右金額の三分の二の金三三四万七、三三四円それぞれ相続により承継したと云うべきである。

(二)  慰謝料

〔証拠略〕によれば、原告醇子は昭和三四年に亡末敏と結婚し、昭和三五年には原告公一が生れたこと、亡末敏は右一家の経済的主柱であつたことが認められる。右の事実その他諸般の事情を総合すれば、原告醇子の夫を失つたことによる精神的苦痛、原告公一の実父を失つたことによる精神的苦痛を慰謝するためには、原告醇子については金二〇〇万円、原告公一については金一〇〇万円が相当である。

(三)  葬式費用

〔証拠略〕によれば、原告会社が亡末敏の葬式費用を支払つたことが認められる。しかして右本人の供述によると原告醇子にはまだ会社から右費用の請求はないようであるが、特段の事情のない限り葬式費用は遺族が負担すべきもので原告醇子は会社にこれを償還すべきものであるから、会社が自己負担することの確証のない本件ではこれを原告醇子に生じた損害とみて妨げない。右費用の明細等立証がないが一〇万円の範囲でこれを認める。

(四)  損害の填補

請求原因4(二)の事実は当事者間に争いがない。

(五)  合計額

よつて、右原告両名が損害賠償を請求し得る額は、原告醇子が金一七七万三、六六六円、原告公一が金三四万七、三三四円である。

3  原告会社について

(一)  物損

〔証拠略〕によれば、原告車は原告会社の代表者である梶田明広が昭和四三年五月一六日、安全自動車株式会社から代金七六万円で購入し、原告会社が設立された昭和四四年一月ごろ、原告会社にこれを譲渡したものであるところ、本件事故により修理不能の程度に毀損し、そのスクラツプ価格は金一万二、〇〇〇円であつた事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで本件事故当時の原告車の価格の算定については、いわゆる定額法・定率法のうち、自動車のように新車でも一年間使用すれば価格が急落するのを通常とするものについては定率法によつて計算するのが妥当であると考えられるから、これによると、その償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によれば〇・三一九であり、被害車の購入から本件事故までの期間が約一年一月であるから、その計算式は、760,000×(1-0.319)×(1-0.319×1/12)=503,801であり、金五〇万三、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となる。よつて、原告車の毀損により原告会社が蒙つた損害は、右金額から前記スクラツプ価格を控除した金四九万一、〇〇〇円である。

(二)  減収

〔証拠略〕によれば、原告会社は重量機械の据付等鳶工事の請負を目的とする有限会社で、本件事故当時の従業員は約二五名、そのうち鳶職が約一三名であつたところ、その鳶職のうち約一〇名が原告車に乗つていて本件事故にあい、二人が死亡、少くとも他の五人が重い者で約三カ月近い入院、軽い者で約二週間の入院の傷害を負つたこと、そこで原告会社は右鳶職達の加療期間中別に人を雇つて業務を行わねばならなかつたことが認められる。

原告は鳶職というような特殊な技術を要する職人は代りの人を得ることが容易でなく、原告会社の雇つたものも量質共に十分でなかつたから相当の収入減を結果したと主張する。確かに右の如く非代替的な従業員の過半数が事故にあつた場合会社が深刻な打撃を受けるであろうことは想像に難くないし、右の如き特別の場合企業損害も事故と因果関係あるものとしてその損害の賠償を事故の加害者に請求しうると解してよいであろう。

しかしながら本件においては本件全証拠によるも原告会社の右損害額の算定がむずかしく、例えば〔証拠略〕によつてみると、原告会社の昭和四四年五月の総売上が約一二四万円、六月が約一一五万円、七月が約一二九万円、八月が約一二五万円と事故の前後で少くとも目立つた落差は見られない。尤も同号証によれば原告会社の月別売上額は事故前のそれは相当変動が激しく原告会社のような業種では通常そうでもあろうから、原告会社が自己の収入減を説明するために事故前の五カ月、事故後の三カ月の総収入を比較の対照としたのも理解できないではない。しかし右のような長期的観測をして始めて現われてくる会社の売上の低下現象のことごとくを本件事故のみによるものと断じてよいかは疑問である。

従つて結局本件ではこの点の原告会社の損害額の立証が未だ十分でないという外はない。よつて原告会社のこの点に関する主張は失当である。

(三)  弁護士費用

原告らが弁護士開原真弓、同河村康男を訴訟代理人に委任したことは訴訟上明らかであり、〔証拠略〕によれば、原告会社がその余の原告らの分も含めて弁護士費用を負担した事実が認められる。そして、本件訴訟の経緯、認容額その他の事情を考慮すると、原告会社が弁護士費用として金一〇万円を請求するのは相当である。

四  過失相殺

1  原告車の運転手訴外福永が原告会社の従業員であつたことは原告らにおいて明らかに争わないところであり、亡楊井純、末廣末敏が同じく原告会社の従業員であつたことは前認定のとおりである。そこで被告は本件事故については訴外福永にも過失があつたから原告ら全員につき過失相殺がなされるべきであると主張する。しかし単に同一会社の従業員というだけでは過失相殺を加えるべき理由にはならず、本件にあつては他に亡楊井純、末廣末敏が福永の運転に指示を与えた等の特段の事情も見当らないから、右純、末敏関係について過失相殺を加えることはしない。原告会社については被告ら主張のとおり従業員たる福永運転手に過失のあつたときはこれを考慮すべきことに格別問題はない。

2  そこで福永運転手の過失の有無について判断する。本件事故の発生状況をみるに〔証拠略〕によれば、本件事故の起つた国道二号線は事故の現場付近では、衝突地点から東へ約四〇〇メートル、西へ約五〇〇メートルの間は直線であつて見通は良好であること、被告中村は被告車を運転して国道二号線を東進し本件事故現場の西方約四〇〇メートルの地点で先行する大型貨物自動車を追い越すため時速約七〇キロメートルの速度でセンターラインを越えて対向車線に入り被告車の後部が先行車の前部と並ぶ位になつた頃進路前方約一二〇メートル位のほぼ中央線上を対向してくる原告車のあるのを認めた。しかし被告中村はそのまゝ進んでも自分が自己の車線に戻り原告車をやり過すのに支障はないと速断しそのまゝ前進を続けたところ、両車の距離が五〇メートル近くに近づいたのに未だ両車とも正規の車線内に入つて離合できる態勢にならず原告車がなお中央線附近にあつて蛇行気味なのに驚き、あわててブレーキを踏んだが及ばず無意識にハンドルを右に切つた状態で西行車線内中央線附近で原告車右側前部に衝突したこと、一方訴外福永も原告車を運転して国道二号線を西進し本件事故現場の手前でまず軽四輪自動車を追い越し、次いで道路左側バス停留所に人が居たりしたので中央線寄りを時速約五〇キロメートルで進行し衝突地点の寸前においてなお車が中央線をまたぐ恰好で一部西行車線に乗りいれた状態になつていた(このことは〔証拠略〕によつてほぼ確実とみられる)こと、しかもその寸前に被告車が目前に迫つて来たことを知り急拠ハンドルを切り車を道路左側にもつていこうとし同時に急制動をかけたが及ばず被告車と衝突したこと、以上が認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右に認定した事実によれば、本件事故は原告車と被告車の運転手双方の前方不注意、追い越し不適当等の過失が相乗して発生したものと言わざるをえず、訴外福永の方にも相当な過失があつたといわざるを得ない。

3  右福永の過失を考慮すると原告会社の被告らに賠償を請求しうる損害額は前項3(一)の金額を金三〇万円に減額するのが相当である。

五  結論

以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、被告中村、被告安岡各自に対して、原告楊井美智子に対し金一九九万六〇〇円、同和宏、浩に対し各金八九万六〇〇円、原告末廣醇子に対し金一七七万三、六六六円、同公一に対し金三四万七、三三四円、原告会社に対し金四〇万円と、右各金員に対する本件訴状送達の翌日たること記録上明らかな被告中村は昭和四四年一〇月五日から、被告安岡は同月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 海老澤美広)

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